32のグラフ: 死刑 (P78)

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死刑を無くすべき理由は、冤罪のリスクがあるからだけではない。死刑はふたつの基本的な人権を侵害している。ひとつは生命権の侵害。もうひとつは拷問禁止の侵害だ。どちらの人権も1948年に国連が採択した世界人権宣言に記されており、193の国連加盟国すべてが守るべきだ。

アムネスティーインターナショナルは、1990年以降に死刑を完全廃止した国のリストを公開している。1990年以前のデータはWikipedia[2]とピンカー『暴力の人類史』(2015)によるもの。

訳者による補足: 本書について日本のツイッターで最も多かったコメントのひとつが、「死刑は悪いことなのか?」というものだ。上記にもあるように、国連の立場は世界人権宣言に基づき「死刑は悪いこと」であり、本書の著者は国連と同じ立場を取っている。

p49にもあるように、『ファクトフルネス』は主にレベル4の暮らしをしている人向けに書かれた本だ。p179にもあるように、現在レベル4の人口の大半は「西洋諸国」、すなわちEUとアメリカに暮らしている。

まず、EUでは死刑が廃止されている。世界人権宣言のWikipedia記事によると、『世界人権宣言を根拠とした「人権と基本的自由の保護のための条約」は欧州人権裁判所によって加盟国の憲法をも上回る法的拘束力を与えられ、EU加盟国によって議論された「欧州憲法」の中にもこの世界人権宣言が含まれている』とある。

また2019年3月現在、EU以外のヨーロッパ諸国でも、ベラルーシとロシア以外の国ではすべて死刑が廃止されている

一方、アメリカでは2019年3月現在、50州中20州で死刑が廃止されており、全体として廃止の方向に向かっている。大きな理由のひとつはコストだ。

アメリカでは憲法に「残酷で異常な刑罰を課されることはない」という条項がある。以前は死刑に絞首刑、電気椅子が使われていたが、「残酷すぎる」とされて90年代後半に廃止の流れになった。以来、薬物が死刑に使われるようになった。しかし、薬物は即死させるのに失敗する可能性が高く、「苦しんで死ぬのなら余計残虐だ」という批判があがった。さらに、EUが死刑用の薬物輸出を廃止し、国内でも減産が続きコストが増した

アメリカでは死刑は執行コストに加え、司法コストも高い。死刑かどうか訴訟では、死刑が考慮されない場合の訴訟と比べ1.5倍から4倍のコストがかかるとされている。より慎重に、時間をかけなければいけないからだ。

日本の内閣府世論調査(2014年)によると、死刑制度に賛成の割合は約80%。アメリカでも、1996年では約80%が死刑に賛成していた(ピュー研究所調べ)。だが、2018年には賛成の割合は54%になり、賛成と反対が拮抗している。

32のグラフの横軸・縦軸についての訳者による補足: 32のグラフの横軸の一番左には、それぞれの題材で信頼できるデータがある最も古い年号が使われている。だから、グラフごとに横軸は違う。このため、ふたつのグラフの形を比較することはできないし、本書でもそのような比較はしていない。