「購買力平価」と「極度の貧困」

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訳者による補足: 脚注では「購買力平価(PPP)」「極度の貧困」という言葉が何度も使われている。どちらも世界銀行が使っている言葉だ。世界銀行はこれらの用語の説明を日本語で公開しているので、こちらに引用しておく。リンクはこちら: 世界の貧困に関するデータ


Q4. 購買力平価(PPP)とは何ですか?どのように決定されるのですか?

A4. PPPを使うと、各国の所得や消費のデータをグローバルに比較できる数字に転換することが可能です。PPPは、世界各国の物価データを基に割り出されます。その年のPPPを決定する責任は、国際比較プログラム(ICP)が担います。ICPは独立した統計プログラムであり、世界銀行の開発データ・グループの中にICPグローバル・オフィスが設けられています。

詳細はこちらをご覧ください: International Comparison Program (ICP)

Q5. 国際貧困ラインとは何ですか?また、国際貧困ラインを基準とした場合、世界にはどれくらいの極度の貧困層が存在しますか?

A5. 国際貧困ラインとは、貧困を定義するためのボーダーラインで、2011年の購買力平価(PPP)に基づき1日1.90ドルに設定されています。2015年には、極度の貧困層は、世界人口の10%となる7億3,600万人に減少しており、25年間で11億人以上が極度の貧困から脱出しています。

Q6. 国際貧困ラインはどのようにして決定されるのですか?

A6. まず、国別貧困ラインを確認します。その国でそれ以下の収入では、最低限の栄養、衣類、住まいのニーズが満たされなくなるというレベルが、国別貧困ラインです。当然ながら、裕福な国ほど貧困ラインは高く、貧しい国ほど低くなる傾向にあります。

ですが、世界全体の極度の貧困層の数を把握するためには、ただ単に各国の貧困層の数を足せば良いわけではありません。貧困層を定義する基準が国によってそれぞれ異なるからです。そのため、全ての国の貧困層を同じ基準で測定する貧困ラインが必要になります。

1990年、独立した研究者のグループと世界銀行は、世界の貧困層の数を把握するため、最貧国の基準を用いた測定法を提案しました。まず最貧国数カ国の国別貧困ラインを検証し、それを購買力平価(PPP)を用いて共通の通貨価値に 換算するという方法です。PPPとは、ある国である価格で買える商品やサービスが他の国ならいくらで買えるかを示す換算レートです。 共通の通貨に転換すると、これらの最貧国の内6カ国における国別貧困ラインが1人当たり1日約1ドルになることが分かり、これが最初の国際貧困ラインである1日1ドルの根拠となりました。

2005年、各国間の物価に関する比較可能なデータがより多く集められ再度検討が行われた結果、国際貧困ラインは、世界の最貧国の内15カ国の国別貧困ラインを基に改定されました。これら15の国別貧困ラインを平均すると、1人当たり1日1.25ドル(前回同様PPPベース)となり、これが改定後の新たな世界貧困ラインとなりました。

そして2015年に再び、2005年と同じ15の最貧国の国別貧困ラインを用いて(つまり測定基準を変えずに)、1.90ドル(2011年のPPPベース)という新国際貧困ラインへの改定を決定しました。

質問3: 極度の貧困 (P9)

イントロダクション固定リンク

世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?

  • A約2倍になった
  • Bあまり変わっていない
  • C半分になった

正解はC。1日1.9ドル以下で暮らす人の割合は1993年の34%から2013年の10.7%へと減った(World Bank[5])。「1.9ドル以下」と小数点が入った数字を聞くと、精度が高い調査なのかと思いがちだが、実際には不確定要素がとても多い。そもそも、極度の貧困を測るのはとても難しい。最も貧しい人々の多くは、自給農家か貧しいスラムの住民だ。暮らしはしょっちゅう変わるし、お金の出入りも記録されにくい。

しかし、極度の貧困率の「絶対値」は当てにならなくても、「変化」は確実に正しいと言える。調査の誤差は昔もいまも変わらない可能性が高いからだ。極度の貧困率は少なめに見積もって3分の1、多めに見積もって半分に減ったと言える。

訳者による補足: 極度の貧困についての世界銀行による日本語の説明はこちら。

「貧困」と「極度の貧困」 (P57)

第1章固定リンク

「極度の貧困(extreme poverty)」は専門用語で、収入が1日1.9ドル以下である状態を示す。

多くのレベル4の国では、「貧困」は相対的に定義される。「貧困ライン」は国が明確に定義したものだったり、社会保障サービスを受けられる基準だったりする。北欧諸国の公式の貧困ラインは、マラウィなど最も貧しい国の貧困ラインと比べると、購買力の大きな差を考慮したとしても20倍の差がある(World Bank[17])。

アメリカの最新の国勢調査によれば、人口の13%は収入が貧困ラインを下回っている。その貧困ラインとは1日約20ドルの収入を指す。スウェーデンだと、国が定める「貧困層」は、所得が中央値の6割以下の層のことを指す。

豊かな国の最も貧しい人たちが直面する社会的・経済的な苦難を軽んじるべきではない(World Bank[5])。しかし、それと「極度の貧困」は違う。極度の貧困にある人は、毎日のポリッジ(粥)すら買えないこともある。少しでもおカネが足りなくなったら死あるのみだ。

訳者による補足: 極度の貧困についての世界銀行による日本語の説明はこちら。

極度の貧困率のグラフ (P68)

第2章固定リンク

過去の極度の貧困率を正確に知ることは不可能だ。物価、通貨、食べ物、仕事、技術の変遷をすべて考慮するのは難しい。本書で用いている数字はGapminder[9]が算出したもの。1980年以前のデータは、以下のふたつの資料に基づいている。第一に、Bourguignon and Morrisson (2002)の推定によると、1820年に1日2ドル以下(購買力平価をもとに調整、1985年国際ドル)で暮らしていた人の割合は94.4%、1ドル以下の割合は83.9%だった。これを2011年の国際ドルで表すのは容易ではない。

Max RoserはOurWorldInData[1]にてBourguignon and Morrissonによる高めの推定を使っているが、わたしたちは低めの推定を使っている。理由は、ふたつめの資料であるvan Zanden[1]が、Bourguignon and Morrissonより低い推定を出しているからだ。

van Zanden[1]は、Maddison[1]による過去のひとりあたりGDPを用いて、人々の所得を算出している。所得分布を調べる際には、人々の身長の分布に注目した(これには軍の資料をあたった)。子供の頃に食べ物が足りないと、大人になっても身長が低いままだ。このように身長に注目することによって、食糧不足、すなわち極度の貧困にある人口の割合を算出した。この調査によると、1820年に1日2ドル以下(購買力平価をもとに調整、1990年国際ドル)で暮らしていた人の割合は73%、1ドル以下の割合は39%だった。

しかし、身長とGDPのデータをすべての国で見つけることはできず、人類の約25%はこの推定には含まれていなかった。軍の資料も無いのだから、含まれていなかったのはおそらく世界で最も貧しい人々だろう。この25%を極度の貧困層に加えた場合、1820年に極度の貧困で暮らしていたのは82%になる。

1800年はおそらくもっと多くの人が貧しかっただろうから、わたしたちは「1800年には全人口の85%がレベル1にいた」とした。

1980年以降のデータはPovcalNetによるもの。詳しくはこちらの項目を参考に: 質問3: 極度の貧困。世界銀行による2013年における極度の貧困率の推定は10.7%。ギャップマインダーはこの数字と、IMF[1]によるひとりあたりGDPの予測を基に2017年の極度の貧困率を推定した(Gapminder[9])。ひとりあたりのGDPが所得と連動していることと、所得分布が現在と変わらないことを前提としている。

訳者による補足: 極度の貧困についての世界銀行による日本語の説明はこちら。

極度の貧困率の推定 (P222)

第7章固定リンク

本書のp221にも書いた通り、現在、アフリカでは約5億人が極度の貧困にある。より正確な推定は4億1000万人だ(Gapminder[9]PovalCal[1]IMF[1])。ただ、極度の貧困の推定には不確定要素が大きいことを忘れてはいけない。詳しくはこちらの項目を参照のこと。

ポール・コリアーは、『最底辺の10億人─最も貧しい人のために本当になすべきことは何か』(2008年6月、中谷和夫訳、日経BP社)の中で、痩せ細った土地に縛られたり、紛争地帯に暮らしている、世界で最も貧しい人たちの未来を描いている。

極度の貧困がどこにあるかを知るには、まず各地域の乳幼児死亡率を見ることだ。乳幼児死亡率は極度の貧困と密接に結びついている。これに加え、紛争地帯の場所、紛争地帯に暮らす人口、痩せた土地に暮らす人口などを併せて見ることで、極度の貧困がどこにあるかが分かる。

  • 紛争地帯の場所のソース: UCDP[2]
  • 紛争地帯に暮らす人口のソース: ODIPRIO
  • 乳幼児死亡率のソース: IHME[6]
  • 土地についてのソース: FAO[4]

紛争が続く限り、極度の貧困を脱するのは難しい。

訳者による補足: 極度の貧困についての世界銀行による日本語の説明はこちら。

極度の貧困のリスク (P305-307)

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極度の貧困のリスクについては、次の情報源を参考にした:

  • 世界銀行(WorldBank[26])
  • 海外開発研究所(ODI)
  • ポール・コリアー著『最底辺の10億人─最も貧しい人のために本当になすべきことは何か』(2008年6月、中谷和夫訳、日経BP社)
  • BBCのドキュメンタリー番組“Don’t Panic—End Poverty” (Gapminder[11])

オスロ国際平和研究所の暫定的なデータによると、極度の貧困は減っているが、紛争地帯に暮らす極度に貧しい人の数は変わらないか、増えている。現在の紛争が長引けば、極度に貧困な子供たちの大多数はこれからも紛争地帯から抜け出せない。

これは国際援助団体にとっては難題だ。ストックホルムで2016年に行われた「第1回平和構築と国家建設に関する国際対話」(International Dialogue on Peacebuilding and Statebuilding)では、紛争地域における極度の貧困のリスクと、それを支援する難しさについて言及された。

本書で紹介した他の4つのリスクはまだ先の話だが、極度の貧困は今まさに起きているリスクだ。現在、極度の貧困に暮らす人のうち、78%は極度に貧しい地域の小規模農家だ。また、極度の貧困層のふたりにひとりは子供だ

訳者による補足: 極度の貧困についての世界銀行による日本語の説明はこちら。